最終更新日:2019/09/10
「チーズの事典」的な本といえば、チーズの基礎知識とチーズの種類が図鑑のように羅列されたものがほとんどです。
この手の本は、1冊あれば十分ですし、今や基本的な情報はネットで検索すればすぐに調べられます。
でも、今回ご紹介する「絵画・建築・映画・文学で味わうチーズの事典」はただ情報を羅列した退屈な本とはちょっと違います。
何が他の本と違うのか、この記事では本書を読んだ感想とこの本の特徴と魅力をご紹介します。
Contents
本書は、本のタイトルにある通り基本的にはチーズの種類を紹介する「チーズの事典」です。
本の冒頭でチーズの基礎知識を簡単に説明した後は、チーズのタイプごとに計45種類のチーズを紹介しています。
チーズはすべてフランス産。
一見退屈そうですが、読み始めるとその世界観に引き込まれます。
フランスに絞っているからこそフランスを旅しているような臨場感が伝わってくるんです。
産地を紹介するアプローチも斬新です。
きれいな写真はもちろん、フランスの文化や歴史と絡めた興味深いエピソードとともにわかりやすく解説されています。
紹介されるエピソードも、よくある美食や歴史一辺倒ではなく、絵画や映画、漫画、文学、建築など幅広い分野が取り上げられています。
チーズ本であると同時にフランスのガイドブックやフランス文化の入門書のようです。
一冊読み終わるころには、まるでフランスを北から南まで旅行しつくしたような満足感が味わえるでしょう。
本を読んでいると分からない用語が出てきて気持ち悪いなんてことよくありますよね?
この本にはほとんどありません。
なぜなら用語を解説する注釈が写真とともにしっかりされているから。
簡潔で要所を絞った本文を、豊富な注釈が見事にカバーしています。
イメージとともに解説している点がポイントで、読んでいる時の楽しさと記憶の残り方が違います。
文章の書き手として違う意味でも勉強になりました。
上でこの本はフランス文化の入門書のようだと書きましたが、一方でチーズの専門書としても優れています。
特に、チーズの製造方法についての解説が詳しいです。
ミルクを温めるところから始まり、温度や時間も詳細に記しながら細かい手順を解説しています。
まるでレシピ本のようです。
それもそのはず、この本の監修はチーズ専門店「チーズ王国」。
会社を率いる久田さんは一流のチーズ熟成士で、日本人初のチーズ熟成士最高位称号を与えられるほどの実力の持ち主です。
実際に現地フランスのたくさんの工房を訪ねて得た生きた知識が本書の解説に散りばめられています。
チーズプロフェッショナル受験など、チーズの専門知識を増やしたいと考えている人にとっても本書はおすすめです。
チーズの事典というタイトルとは裏腹に、本のカバーは手書き文字と脱力系イラストの可愛らしいデザイン。
紙質もザラザラとした質感で温もりを感じます。
見返しは、表裏質感の異なる薄紙にチーズのラベルがコラージュされたデザインです。
ページのレイアウトも、写真やイラストが多く使われていて読み飽きない工夫がされています。
気付いたら手に取って、ページをめくり、いつの間にか読み終わっている。そんな本です。
「絵画・建築・映画・文学で味わうチーズの事典」の魅力をご紹介してきました。
ちょっとほめ過ぎな気もしますが、最近読んだチーズ本の中では一番のお気に入りです。
とにかく本書の一番の魅力は、チーズの種類とフランスの歴史・文化をセットで学ぶことができる点でしょう。
例えば、「ブルー・ドーヴェルニュ」というチーズの解説では、その産地近く出身の作家サン・テグジュペリ(星の王子さまの作者)を紹介しています。
このようにチーズを絵画・建築・映画・文学などと絡めて紹介することで楽しくかつより深くそのチーズを知ることができます。
チーズとフランスが好きで、かつ歴史や芸術に興味があるあなたには打ってつけな本でしょう。
チーズの教養うんぬん抜きに、単純にフランスの気分に浸りたいときにもおすすめな一冊です。