最終更新日:2018/12/02
フランス産の美味しいチーズを選ぶ上で、「AOC」「AOP」という認証システムの理解は欠かせません。
あなたはご存知ですか?
AOCとは、「Appellation d’Origine Contrôlée(アペラシオン・ドリジーヌ・コントローレ)」の略で、原産地名称統制と訳されます。
これは「INAO(イナオー)」というフランスの国立原産地・品質研究所が管轄する農産物の品質認証システムです。
つまり、フランスが国の法律で農産物の品質を守るためのシステムです。
AOPとは、「Appellation d’Origine Protégée(アペラシオン・ドリジーヌ・プロテジェ)」の略で、原産地名称保護と訳されます。
これは「EU」が定めた品質認証システムです。
現在はAOCに認定されたのち、必ずEUの審査を受け、承認されてAOPを取得する必要があります。
EUの審査を落ちたチーズは、AOCの登録も抹消されてしまいます。
以上が簡単な概要ですが、ぜひ一度このAOC・AOPについて理解を深めてみましょう。
そうすれば、いつも食べているフランス産のチーズにより愛着が湧いて一層好きになるかもしれません。
AOPは今やチーズやワインなどの農産物の品質を守る重要な法律となっていますが、そもそもどうしてこのような法律が制定されるようになったのでしょうか?
始まりは15世紀にも遡ります。
それでは年表順に見ていきましょう!
●15世紀 フランス王シャルル6世がロックフォール・シュール・スールゾン村の住人に村の洞窟でチーズを熟成させる特許状を与える
これがチーズの原産地を保護しようという試みの起源と言われています。
●19世紀後半 産地を偽装するなど偽物の農産物が市場に出回る
1860年代後半以降、ブドウ樹を枯死させる害虫フィロキセラがフランス全土に広がりました。これによって、ブドウ畑は壊滅的な被害を受け、深刻なワイン不足になります。これに乗じてワインの模造品や産地を偽装した偽物が現れ、市場が混乱。安価で低品質な輸入ワインも増加。フランスのワイン生産者は苦境に追い込まれます。
ワインだけでなく、チーズなどの食料品も産地偽装や模倣品の増加に悩まされます。
●1905年 「商品販売における不正行為と、食料品と農産物の偽造の取り締まりに関する法律」が成立
混乱したフランスの市場をどうにかしようと、上記の法律が制定されます。
その後、産地名を表示する場合の生産地域の範囲の画定が行政主導で進められます。例えば、「シャンパーニュ」と名乗れる地域はどこまでなのか、その線引きを行政が行っていきます。
しかし、行政の一方的な産地の画定に大きな反発が生じ始めます。
●1919年 AO(アペラシオン・ドリジーヌ)が制定
原産地の画定をめぐる問題は解決されず、行政主導のやり方ではない方法が模索されます。
その結果、「原産地を名乗ることができるかどうかは、裁判官が決定する」というAO(原産地呼称)が制定されました。
しかし、この法律には産地に関する規定はあっても、品質に関する規定はありませんでした。その後、法改正され品質に関する項目も盛り込まれますが、十分に機能しません。
●1925年 「ロックフォール」がチーズとして最初にAOを取得
これはチーズプロフェッショナルの試験に出ます(笑)
●1935年 AOC(アぺラシオン・ドリジーヌ・コントローレ)が制定
行政でも裁判所でもなく、「生産者自身が品質要件を設定し、管理する」という原理に基づき、様々な厳しい品質要件が加えられたAOC法が制定されます。この法律には、「関係する組合の意見をもとに品質要件を制定する」とあります。つまり、AOCは、行政や裁判所だけでなく生産者自身の意見によってコントロールされた法律なんです。
●1942年 AOC一本化
AOC制定後も、品質を考慮しないAOも併存していたためAOCに一本化されます。
●1952年 ストレーザ協定
主要チーズ生産国8か国は「ストレーザ協定」を結んで、原産地名称を守る制度をつくります。その後、AOCもさらに整備強化されます。
●1992年 EU法が規定する、AOP(アペラシオン・ドリジーヌ・プロテジェ)が制定
AOC制度をベースにして、EUの審査、承認によって登録されるAOPが制定されます。
AOPに登録されるには、その前にAOCに登録されている必要があります。そしてその後、欧州委員会の審査を受け、承認後AOPチーズとして登録されます。
しかし、もしEUにAOPの登録申請が却下された場合、AOCの登録も抹消されてしまいます。つまり、現在のAOCはAOPの暫定的段階という位置づけの認証システムであると言えます。
AOPに登録申請するには製造地域や製造方法などを記載した「仕様書」を作成する必要があります。
仕様書は保護・管理機関(ODG)の指導によって正確・厳格に作成されます。
仕様書はフランスで承認後、EUで承認されて初めて有効になります。
仕様書に記載が求められる条件には以下のような項目があります。
●製品の名称
●製品の説明(チーズのタイプ、形、サイズ、乳種、熟成期間など)
●製造地域、熟成地域
●搾乳する動物の管理、与える飼料、チーズ製造方法など
●生産地と製品の品質や特性との因果関係
など
チーズによって、仕様書に求められる項目は異なりますが、いずれも大変細かいところまで厳しく規定されています。
そして、これら仕様書の内容がすべてクリアしたと認められて初めてAOP認証を得ることができます。
AOP認証を取得するには生産者にとって苦労を要しますが、そのぶん自身のチーズの品質は保証され、収入としての見返りも安定します。
消費者も、チーズのラベルを見れば、それが一定以上の品質であるかどうかを確認することができます。
そういう意味でも、AOPの品質認証システムは生産者、消費者どちらにとってもメリットがあると言えます。
AOPチーズの年間生産量は、フランス産チーズの約10%となっています(2015年INAOの公表データ)。
意外と少ないですよね。
それだけ取得が難しい認証と言えます。
ちなみに、AOPチーズのうち、75%は無殺菌乳製です。
また、AOPチーズのうち、8%が農家製です。
この農家製チーズ(フランス語でフロマージュ・フェルミエと呼びます)は、同一の農場で搾乳し、かつ伝統的な技法で製造されたチーズのことを言います。
これのデータを見ると、チーズの本場フランスでも工業化や分業化が進んでいることがわかりますね。
以上、AOC、AOPについて説明してきましたが、最後に、必ずしもAOPチーズが一番ではないということも付け加えておきます。
確かにAOPチーズは、一定以上の安定した品質があり、消費者は安心して購入できます。
でも、AOPではない美味しいチーズもたくさんあります。
現在、登録申請中のチーズもあれば、あえて申請しないチーズもあります。
生産者の中にも、AOPの規定に縛られない自由なチーズづくりをしたいという生産者もいます。
ワインも同様ですが、そういった生産者のものは造り手が頑固なぶん、その味は驚くほど美味しかったりします。
私たち消費者は、AOPは商品を選ぶ際の基準として当然参考にすべきです。
でも、認証外のものも挑戦していくと自分の味の好みにぴったりのものが見つかったり、新しい発見があって楽しいですよ。
認証の有無は関係なくどんどん試しましょう!