最終更新日:2020/06/02
2019年9月、「白カビチーズに認知症予防効果が期待できる」という趣旨の論文が掲載され大きなニュースとなりました。
これまでも動物による研究では乳製品の認知症予防効果が示された例はありましたが、この研究ではヒトにおいてもチーズに認知症予防効果が期待できると示されています。
この記事では、上記の研究内容も踏まえ、カビ系チーズが与える認知症予防や脳機能改善の効果について説明します。
ニュースになった論文は、桜美林大学、地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター、株式会社 明治の共同研究グループにより行われた研究によるものです。
研究は、東京都に住む70歳以上の高齢女性689人のうち、軽度認知障害と判断された高齢女性71人を対象に行われました。
研究方法は、まず対象者を無作為に2つのグループに分け、1つのグループは白カビ発酵したカマンベールチーズ、もう一つのグループはカビ発酵していないプロセスチーズをそれぞれ1日2ピース(33.4g)を3ヶ月間摂取してもらい、血中BDNF(脳由来神経栄養因子)濃度を測定。さらにその後、3ヶ月間のウォッシュアウトを経て、摂取する食品をグループで入れ替えて同様のことを実施しています。
この実験を行った結果、カマンベールチーズを摂取したグループは、そうでないグループと比較して、血中BDNF濃度が有意に高い値を示しました。
BDNF(脳由来神経栄養因子)とは、脳の神経細胞の形成など脳の成長にとって重要なタンパク質です。思考や学習、より高度な脳の機能にとって不可欠な物質であり、BDNFの減少は、うつ病、癲癇、アルツハイマー病、認知症など一連の神経系疾患に繋がります。
BDNFの血中濃度がカマンベールチーズを食べることで高まったということは、カマンベールチーズに認知症予防効果があることを示したことになります。
ヒトに対する試験でこのような効果が確認されたのは世界で初めてのことです。
上記研究以外にもチーズに認知症予防効果があることを示した報告があります。
福岡県久山町で行われた研究では、高齢者の食事パターンと認知症発症リスクの関係を調べ、乳製品の摂取が認知症のリスク低下に有益である可能性が示されています。
また、動物レベルでの報告もあります。
各種チーズが、TNF-αという認知症原因物質の産生を抑制する効果が示されています。
特に白カビタイプ、青カビタイプのカビ系チーズにその効果は顕著に見られています。カビや乳酸菌の働きでチーズの脂肪から有効成分が生成したと考えられています。
このようにさまざまな研究でチーズの認知症予防や脳機能改善効果が示されています。
チーズは、酵母や菌、カビなど多くの生物の働きによってつくられています。
そして、それら生物が生成する物質には未だ知られていない健康効果もあるに違いありません。
もちろん上記のような研究をヒントに意識的にカビ系チーズを摂取するのは効果的かもしれません。
しかし言うまでもなく、チーズが認知症に効果があるからといって偏った摂取も良くありません。多くの研究者が、腸内細菌の多様性が健康の鍵であると主張しています。
また、脳の健康にとって運動や睡眠も食事と同等に大切です。
今回の研究のような新しい知恵も取り入れながら、チーズとともにいろいろな食材をバランスよく食べて、運動と睡眠も意識する。
現代社会ではなかなか全てを満たすのは難しい面もありますが、ちょっとの意識と行動によって自然と健康な脳と体に改善されていくはずです。
参考)
「チーズを科学する」チーズプロフェッショナル協会